ロンドンでは警官が馬にまたがりパトロールをしている姿が見られます。農場では牧羊犬が働き、政府機関ではネズミ取り担当として保護猫達が迎えられています。そんなイギリスの、英国人と猫との関係について今回はいろいろと調べてみました。

猫はどこからやってきた?
ペットとして人間に飼われている猫「イエネコ」の祖先はリビアヤマネコで、ペットとなったのは今から少なくとも9000年前の近東と見られています。海上交易により、古代エジプトから世界へ広がっていきました。
イギリスの猫はローマ人と共にやってきました。ローマ帝国は、猫のルーツと言われてる近東、アフリカやエジプト、トルコを含んだ地中海沿岸部で栄えた古代最大の帝国で、紀元前から5世紀中頃までイギリスも統治下に置かれてました。猫は繁殖力が強くネズミ算式に増えていくため、イギリス人にとっては古くから身近な生き物となっていったと考えられます。
猫は、大昔から商船や探検隊の船に乗せられており、その理由は、ネズミによる食害を防いでくれること、ネズミが媒介する疫病を防いでくれること、さらには、猫が乗る船は運が良いなどといった迷信もあるようです。特に英国とアイルランドの船では黒猫が好まれたという記述もあり、半世紀ほど前までは英国海軍と共に航海していた猫もたくさんいます。

世界の多くの国では「黒猫はアンラッキー」と言われてるけど、侵略を繰り返してきた大英帝国の船が黒猫を乗せていたと思うと、つじつまが合うのかも!?
しかしながら、英国で現在のように猫が多くの人々に可愛がられるようになったのは19世紀以降です。英国の動物保護団体のRSPCA、SPCA、Blue CrossやBattersea Dogs and Cats Homeといった動物保護団体、ペット用の肉を販売する店やキャットフードが生まれたのもこの頃です。
それまでは、魔女狩りなどで不遇な目に遭った猫や動物実験に使われた猫もたくさん居たという記述も見られます。
日本でも、古くから穀物や書物をネズミから守るため猫が飼われていたという説はあるようですが、猫の記録は平安時代に多く登場します。当時は高貴な身分の人が持てる希少な愛玩動物であったとみられ、江戸時代になるとネズミ駆除のために猫を貸し借りをしたり放し飼いにするようにとお達しが出たところを見ると、繋がれて飼われていたようです。猫泥棒や猫の売買を禁止する法律もあったことから、個体数はそれほど多く無かったと考えられます。
イギリス人と猫との関係
猫がイギリスにやってきた当初からすぐ近くで生きてきたイギリス人と猫。興味深いストーリーはたくさんありますが、ここで2つほどご紹介します。
勲章を与えられた海軍の猫
船乗り猫Ship’s Catの主な仕事はネズミ駆除ですが、船員を癒してくれる存在でもあるようです。イギリス海軍の船に乗っていた猫はたくさんいます。
1948年、香港で海兵に拾われた猫のサイモンはイギリス海軍艦艇アメジスト号のShip’s Catとなりました。アメジスト号は当時内戦していた中国へ、イギリス大使館員避難のために向かった小型の軍艦です。中国揚子江で爆撃を受けた際に猫のサイモンも重症を負ってしまうのですが、その後の回復は厳しい状況下に置かれていた乗組員達を勇気付けたとしてヒーローとなりました。
そしてイギリスに戻ってきたアメジスト号にはサイモンの姿もありました。
ニュースサイトやYoutubeには、ボロボロの旗を掲げた砲弾の傷痕を残す小さな船がプリマスへ戻ってきた当時の記録が見られます。
サイモンには戦争で活躍した動物に与えられるディッキン勲章を与えられたのですが、猫は6ヶ月間の動物検疫を受ける必要がありました。そして残念なことにサイモンはイギリス到着後3週間ほどで、検疫期間中に亡くなってしまいました。
船上で受けた怪我が原因でウィルスに打ち勝てなかったと考えられていますが、船から降りて環境が大きく変わってしまったことも一因であるという見方もあります。
“the spirit of Simon slipped quietly away to sea. (サイモンの魂は静かに海に戻った)”
これはサイモンへのある追悼の一文です。
サイモンは葬儀が執り行われた後にエセックスの動物専用墓地The PDSA Animal Cemeteryに埋葬されました。そしてアメジスト号にはサイモン2世と名付けられたサイモンに似た猫が迎えられたということです。
政府機関で働く保護猫
イギリスの古い建物ではネズミの被害に悩まされることが多く、駆除も簡単ではありません。イギリス政府機関ウエストミンスターではネズミ捕獲担当として猫が採用されることがあります。
現在首相官邸で暮らしているラリー君は2011年に犬猫保護施設バタシー・ドック&キャッツから迎えられました。外務省のパーマストン(既に退任)、大蔵省の黒猫グラッドストーンもバタシー・ドッグ&キャッツ出身です。どの猫も元ノラ猫だったそうでネズミ捕獲要員としては申し分ないと思われますが、パーマストンがラリー君との折り合いが悪く、時折ニュースになっていました。
ラリーの同僚としてフレイヤという女の子の猫が迎えられたこともあったのですが、放浪癖があったフレイヤは車の多いロンドンでの暮らしは向かないとして退任となり、現在はケント州で暮らしているそうです。
さらに2匹、内閣府には保護猫施設セリア・ハモンド・アニマル・トラストから迎えられたイービーとオジーの親子がいます。彼らはホワイトホールを含む4階建ての建物を担当しており屋外へ出ることはないとされています。
既に退任しているパーマストンとフレイヤ以外の猫達は皆Twitterアカウントを持っており、時折面白いツイートをして大勢のフォロワーを楽しませてくれてます。
彼らもまた、ネズミ取りの仕事の側、多くの人々を和ましてくれています。
【最後に】過去の出来事を改めて見てみると、イギリス人と猫は長い間さまざまな理由で「共生」してきたように見えます。そして「ペット」となった現代も、猫はハンターであり冒険者であるという考えは生きているように思えます。